【保存版】人事の仕事 人事としての処し方~人事は誰の味方か?~-連載コラム-

人事の仕事シリーズとしてこれまで9本の投稿をしてきましたが、今回がラスト、人事のディープなテーマである…「社内政治と人事について」を扱っていきます。

社内政治争いへの、人事としての処し方

人事は、採用や教育研修といった比較的キレイで華やかな仕事から、労働トラブル対応やリストラに伴う整理解雇といったいわゆるネガティブな仕事まで多岐にわたっています。

華やかな仕事も成果を求められるという点では大変ですが、前向きな仕事ですのでやりがいは感じやすいです。一方、ネガティブな仕事は相手とのやり取りに非常に神経をすり減らし、上手くいってもほとんど褒めてもらえない上に、失敗すればどうなることやら、といった具合ですから、誰もやりたくない仕事といえるでしょう。

しかし、そんなネガティブな仕事でも、どこかに執着点はあるものです。ですから、それを見据えて取り組んでいけば何とかなるとも考えられます。

では、一番厄介で執着点も見えないものは何か?それが、「社内政治に関わること」です。

たとえば、以下のようなものがあります。

①事業承継候補が数名いるお子さん同士が感情的に対立して跡目争いに巻き込まれるケース
②事業承継したまでは良かったが、会長が実権を譲っておらず社長との対立に巻き込まれるケース
③事業承継した後、社長と古参役員数名とが対立して争いに巻き込まれるケース
④事業が大きくなるまでは共に苦楽を味わった経営層が、想定以上に事業が大きくなってしまい仲間割れを起こして巻き込まれるケース
⑤個人的な人間関係のもつれから営業と生産とが異常な対立をして巻き込まれるケース

などなど、例を挙げればキリがありません。

私たち人事コンサルタントにもいろいろあり、幅広くコンサルタントできる方から特定業務に長けた方など様々います。しかし、社内政治を解決する専門コンサルタントなどは耳にしたことがない、というのが現状です。

私は、企業内人事の時代から今に至るまで20年近くの経験の中で一通りの人事の仕事を経験していますが、正直な話、社内政治に関わる場合は深入りしないようにし、「意思決定ができないレベル」と判断したならば、早めに案件から降りることにしています。

何故かと言いますと、人事責任者であれ人事コンサルタントであれ、経営者当人同士のゴタゴタからすれば関係のない第三者だからです。そこに迂闊に手を出したり、良かれと思って発言しようものなら、「お前はいったい誰の味方なんだ?」「お前はいったい会社をどうしようとしているんだ?」という話になり、火の粉が飛んでくることが見え見えです。

実際、私自身もそういうとばっちりを受けた経験がありますし、感情の対立が優先してまともな意思決定などできない状況下で人事施策が進むはずがありません。もし進んだとしても、社内政治を有利に進めるうえでの手駒にされるくらいがオチですから、何の良いこともないのです。

もちろん、私たちは社内のパワーバランスを把握して物事を進めて行くので、根回し的に動いたほうが話の進みが早いような場合は、上手く利用するようにしています。

ですが、上記に上げた話は、経営者としての「意思決定上の問題」ではなく、社内政治という「感情の問題」なので、こればかりは如何ともしがたいわけです。人間は、ましてや人事は神様ではありませんから、会社のトップである経営者同士の感情の衝突をどうにか解決するなんてことは到底できません。

人事は、社内政治のゴタゴタが済んでからが出番と心得て、できるだけ静かに差し障りがないように心がけると良いでしょう。

それでも巻き込まれる場合、どうしたら良いか?

人事担当者や人事責任者の場合、人事評価や異動・昇降格などに関わる関係上、嫌でも巻き込まれてしまう、ということがあると思います。たとえば、「お前はどっちに付くんだ?」「俺の言うことを聞いておけ」「彼にはこうしてほしい」など、各経営担当からちょくちょくオーダーがあるわけです。

これはある意味、究極の選択ですよね。
あっちに立てばこっちが立たず、二枚舌を使ってもすぐにバレます。

こういう場合は、「私は人事として、人ではなく『会社』に仕える身です。会社としての意思決定に従います。ですから、会社としての統一された意思決定をお願い致します。」と伝えるようにすると良いでしょう。

こう伝えると、「面白くないヤツ。」「何様だ、お前は。」「この役立たず。」などと言われるかもしれませんが、人事という立場上、グッとこらえるしかないのです。
実際、人事という職業は、経営者や現場従業員を含むすべての社内関係者は同じ目標を追いかける大切なパートナーですから、人事が勝手に優先順位をつけるわけにはいきません

社内政治に巻き込まれて翻弄され続ける場合、真面目な方ほど神経をすり減らし、ストレスから心身の病気になります。その場合に取れる選択肢はいくつかしかありません。

A.かねてからの重要案件である人事施策だけ懇願し、それに集中させてもらう
B.評価が下がっても社内政治に巻き込まれる当該業務から外してもらう
C.健康上などの理由に配置転換を願い出る
D.転職を検討する

酒やギャンブル、家庭内暴力、各種ハラスメントなどに溺れるのは完全に間違っていますし、今の時代、自分の命や健康を殴り捨ててまでそこに執着することは考えないほうが良いでしょう。

生活があるから…現場従業員を見捨てられない…それは一理あるかもしれませんが、上記のように段階的な対処があるわけです。もし、こうした判断が0-100でしかできなくなっているとしたら、既に精神的に参っている証拠です。信頼できる仲間に早めに相談して判断するようにしてください。

人事は誰の味方か?

先ほど、人事は関係者全てが顧客であり、関係者全員の味方にならなければならない、といったことを伝えました。

それを実行しようとすると八方美人にならざるをえませんし、人事が投下できる工数や人工も相当限られますので、優先順位をつける必要が自ずから出てきます。その順位づけはケースやタイミングによって変わるため、判断を慎重に行いながら賢く動くことが重要です。

オーナーや社長が非常に強いパワーやカリスマ性を持っているのであればどこを向けば良いのかわかりやすいため、人事としてオーナーや社長に選択肢を用意し、判断を仰ぎながら人事政策を展開していけば良いでしょう。または、経営層がそれなりに役割分担をして共に手を携えて経営しているような場合は、多少のパワーバランスがあるにせよ、そこに配慮しながら動けば問題がありません。

中小企業においては、人事の位置づけは営業や生産などのライン部門に比べると(プロフィットセンターではないために)低くならざるを得ず、経営課題に対する提言・提案が受け入れられない、発言権がないというケースがあります。こうした場合、人事が声高に経営課題を叫んで、人事施策を推進して導入するのは厳しいです。企業としての優先順位は大抵の場合、そこには無いからです。

ただし、それは全社的な話であって、管理部門内や人事業務単体においてはそう難しい話ではないと思われます。人事業務は年間であらかじめ決まっている予定の業務が多いので、採用や教育、制度運用や事務処理に工夫を加えていくことはできるのです。

たとえば、毎月のように入社してくるパート・アルバイトに入社時の事務手続きについてオリエンテーションをしていたとします。そこにあと2~3時間を割かせてもらい、普段は現場サイドで行っているような会社の歴史や成り立ち、市場の動向、商品やサービスの特徴、どのような従業員が求められているかについて話をすることで、現場の負担を減らしてあげることができます。

また、営業や生産などの他部門が困っていることは無いかをヒアリングし、人事として打てる手を検討してお手伝いしていくこともできます。現場の管理者や責任者が悩んでいて、上司となる役員や自身の部下に相談できないことを人事担当者に吐露できるだけで、ストレスが解消できることだってあるのです。当然、実務的な面からお手伝いできることもあると思います。

たとえば、メンタル面の不調から営業担当の休職や退職が増加傾向にある営業部門があったとします。当然、管理者は直面している課題に手を打たなければならないと感じているはずです。人事担当者が第三者となって営業担当個々人から現状をヒアリングし、なぜメンタル不調に陥っているのかをまとめてレポートするだけで非常に喜ばれます。
その打ち手として、定期的な人事担当者による面談や外部カウンセラー等によるカウンセリングを行ない、ガス抜きできる環境を整備するように提案しても良いわけです。

そうした、自部門での取組みや他部門へのお手伝いを通じて成功事例や存在感を示しつつ、機を見て経営課題とその解決のための人事政策について提案していく、というのは有効な手のひとつです。
人事は会社からすれば、あくまでもサポート役という位置づけで見られているため、営業や生産をさしおいて派手な動きをすると却って思い通りに事が運ばなくなることがあります。あまり目立ちすぎないようにしながら、さりげなく経営トップや他部門に対する支援を地道に繰り返すことで、社内での存在感をアピールしていくことが重要です。

したがって、経営課題を解決していくという時間軸で見た場合、社外から人事コンサルタントが人事施策を設計して導入するよりも、社内で地道に存在感を示していく人事担当者のほうがより長い年月を要することとなりますが、実際の効果として見れば社内の人事担当者のほうが大きな影響力を行使することができ、役にも立つのです。

もし、手短かに経営課題を解決していきたいのであれば、人事担当者が仲介役となって、上手に経営トップと人事コンサルタントを引き合わせることで人事施策の優先順位を引き上げてもらうようにすることは有効な方法といえます。

その場合、人事担当者は人事コンサルタントのノウハウやテクニックを短期間で吸収することができ、経営課題も解決に向かうため一挙両得になる可能性があるといえますので、そうしたステークホルダーを上手に活用していくと良いでしょう。

現場からすると、「秘密警察・CIA」のように見られることの多い人事ですが、社内政治における処し方や社内関係者との関係の在り方をしっかりと活かしていくと、人事が「調和を取る役割」へと変わっていくことになります

どの経営者もどの部門責任者も、人の細々した問題に辟易としているので、手を取り合いながら働き甲斐のある良い会社へと変えていきましょう。

次回からは、社内政治などのゴタゴタが無い状況下で、「人事として、具体的にどういった組織づくりをしていけば良いか?」という経営組織論についての連載をスタートさせていこうと思います。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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