【保存版】人事の仕事 人事施策を進める上で必要となる視点

企業の人事担当者や責任者が、採用や教育、評価といった人事施策を推進し、狙った成果を上げていくために、どのような視点・考え方で取り組むと良いでしょうか?今回はこうしたお話をしていきます。

・他社と異なる奇抜さが大切
・最新のものを取り入れるスピード感が大切
・全ての作業を定めてルール化する精緻さが大切
・人を信頼し育てていく面倒見の良さが大切

すべて正解のように見えますし、違和感を覚えるものもあると思います。
実は、上記どれもが正解であって、どれもが間違いであるといえます。

というのが、人事施策とは結局のところ、「会社のメンバーが、自分の力が発揮できているという認識があって、会社が求める方向に沿って必要な成果を一定以上出しており、同僚と前向きに働いていて生活が回っていれば」何でもOKなのであって、その形式やルールの在り方には「答えがない」からです。

ですから、「残業がいくらあっても大きな影響力を行使できるなら構わない」と言う組織もあれば、「決まったことを最低限やって生活できればいい」と言う組織もあって良いわけです。
問題は、それを隠して上手いことを言って単に能力のある人を採用しようとするから、ミスマッチやハラスメントを始めとする悲劇が起きている…ということなのです。

では、どうすれば、より自社にフィットした人事施策になるのでしょうか?

今回は、人事コンサルタントの多くが意識しているポイントを以下に挙げていきたいと思いますが、最初からこうした視点を持って人事施策を推進することは正直なところ難しいですので、「自身で意識をしつつ、実際に体感しながら視点や能力を獲得していく」というスタンスで取り組みましょう。

①人事施策と企業文化(業種・職種)の整合性の視点

人事が推進する各種の人事施策が、「企業風土や企業文化に馴染むか」という視点は非常に重要です。

これらは空気のように目には見えづらいものですが、組織形成のプロセスで生まれてきたその会社独自の仕事に対する考え方や進め方などのことで、企業風土というのはその会社の体質のようなものを指します。

たとえば、「何か新しいことをしようとするとすぐに否定される」風土の会社もあれば、「新しいことを次々にやるが根づかずにやりっ放しになる」風土の会社もありますよね。これは、会社の中で影響力を持つ人が長年かけて蓄積してきた振る舞いや言動、メンバーがお互いに培ってきた関係性が「規範」となって表れたものです。これは、人の入れ替わり(退職や異動など)や強力な外圧が無い限り、なかなか変えることができない性質のものです。

一方、企業文化は、その企業が属する業界や職種独自の習慣や働き方と直結したキャラクターといえます。

たとえば、医療・介護業界であれば「温かさ・思いやり・相互扶助」といった文化に馴染みやすく、IT業界であれば「最新・変革・進化」といった文化に馴染みやすいといえます。

人事施策については、新しい仕組みを導入することが多いので、この企業風土・企業文化に合わせて提案・判断していく必要があります。もし、企業の風土や文化に馴染まない人事施策を無理矢理に構築したり導入したりした場合、現場従業員からの強い反発を招く、人事施策が正しく運用されない、又は運用の抜け道を探そうとする、運用を都合の良いように解釈する、といった事象が発生するようになります。

これでは、せっかく経営者と人事とが二人三脚で構築した人事施策が単なる徒労で終わってしまうことになりかねません。

たとえば、家族主義で保守的かつ年功序列的な風土を持つ企業において、競争力を高めようとして強引に成果主義中心の人事評価制度を取り入れた場合、どうなるでしょうか。まず、現場従業員が強く反発をします。その反発を抑えようと現場管理者が動きますが、彼らは人事領域のプロではないために十分な説明や説得ができず不満を抑えることができません。そこで、経営者や人事が説明をしますが、経営層と現場とでは問題意識、視点や価値観が異なるためにすれ違いに終わります。

それでも強引に導入すると、現場の士気が下がり業務効率が落ちる、利害関係者間の関係が悪化し派閥争いが起こる、現場側の不信感が募る、退職者が出る、こうしたことが起こるようになります。

そもそも現場で成果主義を納得・理解していないので、適正に運用されることはありません。でたらめな評価や的を射ていない評価がレポートラインを通して上がってくることになり、それを元に給与改定などが行われるとさらに不満が募り労使関係が悪化する…と、頭を悩ませることになります。企業風土に合わない人事施策を展開したがために士気が下がり、業績も伸び悩むのです。当初意図した目的とは全く逆の方向に機能してしまうというわけです。

では、こうした保守的かつ年功序列的な文化を持つ企業に成果主義を根付かせることはできないのか、というと決してそうではありません。これは現場の巻き込み方や説明の仕方、成果主義に対する慣れさせ方などを工夫すれば良いのです。

人事施策を進めるにあたり、経営トップが現場従業員に対して会社が抱える問題・課題を共有し、どのような手を打つべきか、どのような覚悟と努力をすべきかなどをトップダウンでプレゼンテーションします(いわゆる方針説明ですね)。また、現場従業員に立候補してもらって人事施策推進の協力者になってもらう、現場従業員に進捗状況を適宜共有する、といった意識向上を促すことも有効な手となります。人間は感情の生き物ですので、あらかじめ心の準備をさせることでハレーションを少なくする、というわけです。

一方、大きな舵取りを行わずに企業風土に浸透しやすい形にして、ボトムアップで知らず知らずのうちに成果主義に慣れさせていくという手法もあります。勉強会を開催すると銘打って目標管理に関する勉強会やグループワークに継続的に取り組ませる、ゲーム形式にして競わせて面白さや有効性についてしっかりと理解をさせ、自主的に成果に向かうように仕向けるというものです。

現場従業員の多くは、
「自分のキャリアや市場価値が上がる」、
「学びや気づきを得ることで成長を実感できる」、
「いつもと違う体験をすることで面白さを感じる」
などのポジティブなフィードバックがあれば、時間や労力をそこに費やしても良いと考える傾向があるからです。

このように、企業風土や企業文化を考慮した人事施策にしていく必要があります。

②人事施策の目的と内容の一貫性の視点

企業規模にはよりますが、人事施策を進めるとなると通常でも半年~1年、職務分析や業務プロセスの再構築を含むものとなると2~3年かかるプロジェクトとなってくることが多いといえます。
そうすると、プロジェクト開始時に経営トップが持っていた問題意識や人事施策に対するねらいが、プロジェクトを進めていく中でぼやけてしまい、当初の目的から逸脱することがあります。

そうしたことにならないよう、人事担当者や責任者は解決したい経営課題やテーマと合致しているかを常に確認する必要があります。

人事施策の目的と内容にズレが生じる例としては、当初「若手社員がキャリアアップでき定着率が上がる人事制度を作りたい」というねらいでプロジェクトを進める中で、「そもそも若手社員を育成する40~50代に教育を実施する必要がある」という問題意識が芽生え、人事制度の主旨が変わってしまう、というようなことです。また、プロジェクトを進める中で、「あれもこれも盛り込みたい」と欲張りになることで、当初の目的がぼやけてしまい、「何がしたかったのだろうか」という結果になることもあります。

その他、複数いる役員がそれぞれのスタンスから発言するだけで、一つにまとめようとしない場合も中途半端なものとなってしまいます。そもそも、会社の考え方が一つにまとまっていないので人事施策も構築できず、表面上構築ができたとしても、各自が納得していないために運用も適正に行なわれることがありません。

こうした組織には利害関係者同士の対立が感情の問題としてくすぶっている可能性があるため、人事担当者や責任者レベルが迂闊に手を出すべきではないでしょう。事が大きくならないうちに経営トップと協議を行い、一旦プロジェクトを凍結するという決断も必要になると思われます。

当初の目的から大きく逸脱しているな、と感じることがあれば率直にその旨を伝え、当初の目的に立ち返るか、方向性を思い切って変えていくのかを判断してもらわないといけません。方向性を変える場合は、当初の問題意識が解消されない可能性があることも納得したうえで判断をしてもらう必要があります。テーマが複数に渡り、同時に解決できない場合は優先順位をつけて次のプロジェクトに回すという方法もあります。

③人事施策の実施による投資効果の視点

人事として、人事施策の推進による投資効果がどのくらいになるのか、について大まかにでもイメージをしておくことは大切です。

多くの経営トップは身銭を切る感覚であるため、社外のコンサルタントに依頼する場合は、その報酬や人事施策に伴う人件費の増加が結果として投資になるのか、費用になるのかを非常に気にします。では、どのような場合が投資になるといえるのでしょうか。ここではその一部についてご紹介したいと思います。

例えば、定着率が低い業種や企業の場合、人事施策を推進することで定着率を上げることができる、といえます。「定着率が低い原因が何か」によりますが、その原因がパート・アルバイトから社員へのステップアップが明確でない、社員のキャリアアップが明確でない、どのくらい頑張ればどのくらい昇給するのか明確でない、といった場合には人事制度(昇格ルールや社員登用ルール、給与ルール)を整備していくことで定着率を高めていくことができます。

定着率が高まることで、募集費が減り営業利益が増える、定着するため採用や教育にかかる時間当たりの人件費が浮く、社員やパート・アルバイトの経験値が高まり戦力になってくれることで一人当たり売上高が高まる、といった効果が期待できます。

すぐに金額に換算できるのは、募集費や採用・教育にかかる時間単位のコストです。採用広告が以前の半分になるだけでも、相当のコスト削減効果があるでしょう。その分を広告宣伝費や社員の福利厚生費、賞与の原資にまわすことだってできるわけです。

上記のように、「何々でいくら、何々でいくら」と経営トップと数字を詰めていくことで埋没しているコストが明らかになり、問題意識が芽生えることもあります。具体的にイメージさせることが重要です。

一方、必要以上の投資をする場合はどうでしょうか。経営トップが惚れ込んでしまい、企業の規模感にそぐわない、大企業向けのシステムや外資が導入している仕組みを入れるような場合です。

例えば、それほど管理部門に多額の人件費がかかっているわけでもないのに、コンサルタントの薦めでシェアードサービスを導入するという企業があったとします。こうしたシステムが全く機能しないというわけではありませんが、経営トップがいたずらに管理部門を一元管理しようとしても、現場の情報に乏しい本社事務では現場の温度感は伝わらず、スピード感に欠ける対応になってしまうこともあるかもしれません。それが生産部門や営業部門の業務に支障を及ぼし、却って業務停滞などのロスを招く可能性もあるのです。

規模感に合わない風呂敷を広げたシステムや仕組みは経営トップの自己満足になってしまい、業績向上につながりづらいため非常にもったいないことといえます。投資に見合った効果が期待できそうか、という視点を経営トップと共有することは人事施策を進めるうえで非常に重要になるのです。ですから、日頃から経営者と人事は問題意識や解決について話し合いをしつつ、課題の優先順位づけを行っておく必要があるといえます。

④人事施策運用の複雑さの視点

人事が特に気をつけなければならないのが、この「複雑さ」です。人事担当者や責任者はどうしても専門的な見地から「複雑な仕組みを理解させて現場で運用させよう」とする傾向になります。いかにシンプルで誰にでもわかるように構築できるかという視点を大切にしましょう。

社内の人事担当者も外部のコンサルタントも、日々学習を重ねるなかで「この理論・理屈はすごい」と感銘を受ける、「このやり方が方程式(最新式)だ」と思い込んでしまう、また机上の空論から複雑な仕組みにしてしまうといったことがあります。

これは、人事だけでなく、その道の専門家なら誰しもが陥りやすい事象といえます。あくまでも人事が判断基準としなければならないのは、「経営課題が解決できる人事施策である」ということ、「現場で実際に運用できる」ということ、人事施策により「従業員が以前よりも仕事にやりがいを感じることができる」ということなのです。
そして、それは業種業界、経営トップの考え方や企業風土によって大きく異なってきます。ですので、全業種・全職種共通のベストな人事施策や正解はないということになります。

それでも、そのような誤った考えに陥るのはなぜでしょうか。おそらくは勉強熱心な姿勢から「人事の業務にも正解はあるはずだ」「方程式は存在するはずだ」と正解を探すことに躍起になってしまっているのだと思います。テクニックや手法は、時代背景や時流によって形を変えていくものなので、正解や方程式は10年単位の時代の流れの中ではあまり役に立たないのです。

人事としては、経営者も現場従業員も「感情を持った人」であることをしっかりと認識し、「経営者の考えや現場を知る」こと、そして「彼らが欲しがるものを提供すること」がサービスの基本である、ということを肝に銘じなければならないのです。

ですから、人事施策というものはできるだけ手間やコストがかからずシンプルなものにして、5~7年単位で運用しつつ、時代に合わせてまた次のステージに合った人事施策を展開していけばよいと考えるようにしましょう。

⑤人事施策による組織的自立(自律)の視点

最後に、人事施策により「組織が自立(自律)できるようになるか」という視点があります。人事施策が運用される段階になっても、その人事担当者無しでは一切物事が進まない、他の誰も担当できない、ということがあります。

人事施策を推進してきたのが社内の人事担当者であればまだ問題は少ないですが、社外から支援するコンサルタントであれば過度に依存しているということになります。このような状況下では、経営者が自身の責任で人事施策を展開している状況になっているとは言えず、何かトラブルが発生した場合に処理できないばかりか判断も行なえず、コンサルタントがその都度判断し処理するということになりかねません。これでは誰の会社かわからなくなります。もちろん、経営者とコンサルタントの相性が良く、実質的社員のようになっているのであれば良いのですが、お世辞にも人事施策が独り立ちしたとはいえない状況だといえます。

人事施策は設計から導入、運用と段階を経ていく中で企業の中に溶け込んでいく必要があります。特に設計を外部のコンサルタントが行う場合、その運用を現場の人事担当者や事務担当者が十分に担当できるくらいにしておく必要があります。そのためには、設計の初期または途中から現場の従業員にも入ってもらい、人事施策の設計に携わってもらうことです。

こうすることで、その従業員自身の目線が経営者目線へと高くなり、制度設計や運用に対する一連の工程を体験することで人事担当としてのスキルアップにつながります。何よりも、会社を変革する立場に立つことで経営に対する責任感や使命感が生まれ、従業員の仕事に対する意識が大きく変わるのです。
これ以上の実践的な人事担当者育成プログラムはありません。こうした、会社が変革しようという機会を活用して従業員を育成し、企業内で人事施策の運用を実施できるようにしていきましょう。それが企業の無形資産を増加させることとなり、競争力の上昇につながるのです。

以上、人事が持つべき視点を5つ取り上げました。

私たち人事コンサルタントは、人事制度や教育体系といった何らかの施策を構築していく中で、常にこれらの視点に照らし合わせています。皆さんも、こうした視点を頭の片隅において、ご自身の血肉にしていただければ幸いです。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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