【保存版】人事の仕事 これからの人事「企業経営の視点」から見た人事の役割

企業経営から見ると、「人事」という言葉には、「人材評価に伴う各種の采配」という意味があります。それは結果の現象として起こっている出来事であり、本来、企業オーナーは社内の煩わしいことを気にせず将来にわたって安泰にしておきたい、経営者は組織のことに悩むことなく新規事業や対外的PR活動に勤しんでおきたいのです。

そのために、人材と組織を管掌する幹部や管理職ら全員に対して、「会社組織と人材をしっかり束ねてよね」というのが「企業経営から見た人事」であると言えます。つまり、経営者がイメージする動きを従業員が取ってくれて、一定以上の成果(売上や利益、顧客からの信頼)を上げ、適切に業務運営し組織を束ね、報連相しながらPDCAを回してくれていれば文句はないわけです。新しい事業やサービスを次々生み出してくれれば尚良しでしょう。

しかし、実際には、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報等)のうち、モノ・カネ・情報は文句を言わずに働いてくれますが、ヒトは指示通りに動くとも限りませんし、サボったり文句を言うこともあります。思い通りに動かないわけなので、経営者や管理職の多くはヒトである従業員に頭を悩ませている…これが現実です。

結局、リーダーや管理者が現場に出て行って対処したり、経営者自身が判断・対応しなければならないといった事案も出てきます。いつまでたってもラクになる気配はなく、次の一手が打てないといった会社も多いことでしょう。

そうした経営視点で人事を考えると、人事の役割とは「超長期的・永続的に企業が繁栄していく(影響力を行使できる)ように、経営者を含む『個』に依存せず、経営資源である人と組織を最大限機能させること」となります。ちょっと難しい表現かもしれませんね。

よく、カリスマ経営者が社内外からもてはやされたり、社内のスター的な社員がフォーカスされたりすることがあります。ですが、それは組織的・意図的に再現性を以て育成された人材や組織でない限り、結局は一個人の資質や生育歴、本人の努力・経験から来るセンスやスキルに起因する偶然の産物に過ぎません。その人が居なくなった途端にミラクルは起きなくなるわけです。
ですから、高いパフォーマンスを組織として再現できるようにする(仕組みと現場の運用で人と組織を最大限機能させる)ことが、人事が本来ミッションとして行わなければならないこと、となります。

御社では、そうした取り組みが出来ているでしょうか?

おそらく、ほぼ全ての読者が「ノー」と答えるでしょう。
この分野を生業にしている私たちでさえも、取り組みとしてシステム化やサービス化を進められているものも一部はありますが、悲しい話、「個性も能力もやる気も全て異なる、感情と欲求にまみれた人間」を相手にしているだけに、「こうすれば絶対大丈夫」という正解を見つけ出すことはできていません。

目指すべき組織の姿「完全なる組織」とは

ただ、目指すべき組織の姿の一指標として、私たちが考える「完全なる組織」を以下に示したいと思います。これをどうやって実現していくのか?が将来的な人事のテーマやビジネスの種になろうと考えています。こうした考えの着想は、経済学における完全(競争)市場や効率的市場仮説です。

【完全なる組織】

1.パフォーマンスを100%発揮する組織

①全員が会社の目的・目標の実現に対して忠実に動く
②役割・責任・権限が全て明確で分担され、互いに協力し合って全員が全うしている
③情報や指示・ノウハウは瞬時に末端まで行き渡る
④人は歳を取らないで働き続ける
⑤人は辞めずに働き続ける
⑥人は24時間疲れることなく全員が均等に同じパフォーマンスを発揮する

 

2.人間の持てる偉大さを発揮する組織

①人は互いの個性・状況を隅々まで理解し、安心感を以て相互にねぎらい本音で話す
②人は互いの能力を熟知しており、次の成長のために常にフィードバックを行っている
③人は会社や仕事、共に働く仲間に対してやりがいと誇りを感じている
④人は将来に明るい展望を持ち、それが実現するワクワク感を感じながら働いている

上記1と2は相関し合っており、1があるから2がある、2があるから1がある、といった関係性を持っていると考えられます。ここが、人材や組織が一筋縄でいかない理由となります。では、実際の組織はどのようになっているでしょうか。完全なる組織の逆の表現で以下に示します。

【実際の組織】

1.パフォーマンスを発揮できない組織

①会社の目的・目標の実現に対して忠実に動かず、保身や感情・やる気に左右される
②役割・責任・権限に不透明なところがあり、部署間や個人間で互いにいがみ合う
③情報や指示が届かない、またはねじ曲がって伝わる、ノウハウは個人に蓄積される
④人は加齢に伴い頭や体が鈍くなる、一部は性格が丸くなるが多くは頑固になる
⑤人は会社を辞める、部署や業務によって辞める人が多い場合がある
⑥人の集中力は持って数時間、疲労は蓄積し、能力は個々で異なり非常に大きな差がある

2.人間の持てる偉大さを潰す組織

①互いによそよそしく、安心感がないために建前と本音を使い分ける
②相手に(成果や品質の)期待するが下回ると叱責する、そのため相手が恐怖で動く
③働くことは生活を回すためだけのもの、と空虚感を感じている
④将来に対して失望し、自分の給与に見合った分だけ最低限働く

完全なる組織の逆として列挙してみましたが、身も蓋もない組織となってしまいました。
ですが、私たちがご紹介をいただいて訪問する企業の中にはこうした会社が実際にあります。そもそも経営者が上記の状況を認識できないので対応のしようがなく、末期状態と判断してお仕事をご辞退するケースもあるのです。

GAFAを始めとする企業においては、テクノロジーを活用したサービスや組織運営を行なっていること、また社内で仕組みを作る側の従業員が非常に優秀であるため、上記1についてはいくつかのハードルをクリアしていると思われます。また、優秀で自己管理も個々でできているからこそ、2も一定以上クリアしているのではないでしょうか。

人ではないアンドロイドやロボット、コンピュータが業務を行い、管理まで実施するようにしていけばパフォーマンスは100%に近づきます。ただし、この「100%」は設計時に想定したアウトプットの100%に近づけるということですから、誰がそれを設計するのか?と言われれば人間でしかない、というジレンマが存在しています。

多くの会社では、一部のパフォーマンスの高い人材が会社を牽引して成り立っているわけですが、いかに個人に依存せずにパフォーマンスを100%発揮できる組織にするか?もしくは、人間の持てる偉大さを発揮できる組織にするにはどうしたら良いか?について、足元でできることから探っていくことが大切と思われます。

以下、簡単にテーマとして列挙してみましょう。皆さんご自身で考えてみてください。

【組織開発のテーマ】

1.パフォーマンスを発揮できる組織にするには?

①会社の目的・目標の実現に対して忠実に動くにはどうしたら良いだろうか?
②役割・責任・権限を明確にし、その通りに動かすにはどうしたら良いだろうか?
部署間や個人間で互いに協力し合うようにするにはどうしたら良いだろうか?
③情報や指示が末端まで正確・迅速に届くようにするにはどうしたら良いだろうか?
現場の情報やトラブルが正確・迅速に経営まで届くにはどうしたら良いだろうか?
ノウハウが全員に均等に行き渡るにはどうしたら良いだろうか?
④会社の平均年齢を一定で維持するにはどうしたら良いだろうか?
⑤会社から見て不要な人以外、どうしたら定着させられるだろうか?
⑥人の能力ややる気に依存せずに行うにはどうしたら良いだろうか?
能力ややる気のバラつきを防ぎ高い成果を上げるにはどうしたら良いだろうか?


2.人間の持てる偉大さを発揮するには?

①従業員が互いにねぎらい、支え合うにはどうしたら良いだろうか?
②従業員が互いに成長を承認し、高い能力を身につけるにはどうしたら良いだろうか?
③従業員がやりがいや誇りを感じるにはどうしたら良いだろうか?
④将来に希望を持ち、ワクワクしながら働いてもらうにはどうしたら良いだろうか?

ここに挙げたことは、経営視点から見た「組織と人」にまつわる人事のテーマです。
管理職や人事担当者が、「経営者から突然変なテーマを出されたよ」などと言う場合がありますが、それはこうした視点で発想しているから、ということになります。

答えは時代によっても、会社によっても変わりますが、考えていろいろと試してみることが一番の近道ですから、長期的なテーマとして心に留めておきましょう。

次回は、もっと実務に近づけたテーマとして、「人事が柱とすべきKPI(KGI)」について、お伝えしていきます。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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