【保存版】人事の仕事 VUCA時代に重要となる人事と「人事の定義」

Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を並べたVUCA(ブーカ)。今の時代を象徴するキーワードとして頻出するようになってきました。

こうした時代だからこそ、私たちは「経営資源であるヒトを扱う会社」として、「ヒトの力」をいかに活かすことができるか?という視点に立ち、「人事(個人と組織)」という仕事について、皆さんと共に学ぶ場を設けることとしました。

VUCAな時代だからこそ、人事という仕事をもう一度見直す

当社は地方を拠点に構える人事コンサルティング会社ですが、関東圏のようなトレンドを追うエリアではなくとも時代の変化を感じざるを得ない事象が多く発生し、それに対応できずに戸惑い混乱する業界や企業を多く見ることとなっているのが現状です。

実際、こうした混沌とした状況であるにも関わらず、経営者も現場従業員も「コロナだから仕方ない」と言っては業績が落ちていくのを、指をくわえて他人事のように眺めているのです。本来であれば、こうした危機的状況を乗り越えるために経営者が旗を振り、現場管理者が部下を叱咤激励し、人事が横断的に各種施策を展開していくべきでしょう。

「人事の世界」は本来、「温情深く人の心に寄り添うウェットさ」と「厳しい世界を力強く生き抜くドライさ」が調和・統合した世界です。このウェットさとドライさを十字に組み合わせて、仕組みと運用の二つで機能させていくことで、より良い組織の状態を維持して企業を未来へと繋いでいく世代性のある仕事です。

息が長いので売上高や利益といった数字としてすぐに表れづらい定性的な性質を持ち、中長期的な影響力が大きい故に、多くの企業では経営者の専権事項になりがちで、政治的なパワーがモノを言う領域であるといえます。
では、そうした辣腕を振るう経営者が人事の勉強をしてきたか、と言われれば多くの場合はそうではありません。むしろ、個人のビジネス感覚や価値観(理屈や我)をいかに通すか、という観点で無秩序に評価や辞令が通達されているのが現状です。

そこで、できるだけ専門用語を使用せず、日ごろのビジネス現場経験を持つ方であれば誰でも理解できるようにわかりやすくまとめていきます。
経営者も現場管理者も人事担当者も「人事実務」を体系的にご理解いただき、皆さんの企業を発展させる一助となれば幸いです。

日の目を見ることの少なく実力の無い人事部門

今年は年度の初めから、コロナ禍という新しいワードが出現して、ビジネスだけでなく私たちの生活を一変させていきました。コロナに対応した技術やサービスもすぐに立ち上がるスピード感のある、変化の激しいこの世にあって、昔からあまり大きく変わっていないのが、人事部門の仕事です。

技術やサービスの担い手は常に「人」であるはずなのですが、人を扱うはずの人事部門にスポットライトが当たることはなかなかありません。中小企業では、組織の規模感から人事として独立した部門はほとんど存在せず、概して総務や経理などと一緒に扱われたり、総合して管理部などと呼ばれることもあると思います。ベンチャー企業においては、従業員数がそれほど多くない時期から人事部が置かれることもありますが、実際は経営者も当の人事担当者も「何をしたら良いのか?」を理解していないがために、単に採用や新人研修を行っている、という会社のほうが多いでしょう。大手企業では人事部門が人事企画部、人材開発部、労務厚生部のように細分化されていると思われますが、部署が分かれることで専門化が進む結果、足並みがそろわず異なったメッセージが現場に発信されてしまうことも少なくありません。

多くの場合、人事を担当するスタッフは採用や教育研修、人事制度の運用、勤怠集計、給与計算、入退社処理などの実務作業を行うことが主であって、経営トップの方針や計画に合わせて人事制度を企画したり採用・育成計画を立てるだけの役割を与えられておらず、また、与えられたとしても必要となる専門的な能力やスキルに乏しかったり対応できるだけの人数がいません。また、変化の激しい現場のニーズやスピード感に合わせた柔軟な対応ができないことから、経営者も現場も人事を担当するスタッフを、手続きを行う担当者と見ているのが実状といえます。

では、何故このような状況に陥っているのか?

では、なぜ人事が企業の中で機能しづらいのでしょうか?

それは、一言でいえば「人事という仕事が曖昧」としていて、何をする仕事なのか、定義がわかりづらいからです。人事業務に就いている担当者や経営コンサルタント、社会保険労務士でさえ、人事という仕事は何なのかをほとんどわかっていません。目の前の採用や研修、給与計算、人事制度の構築、就業規則の改訂を作業的に行うことが人事と思ってしまっています。

人事の定義とは、「事業計画を実現するために、経営資源である人と組織を最大限活用すること」、もう少し簡単に言うと、「目標を達成するために人と組織を管理すること」が人事の仕事、ということになります。

それでは、現場の管理者と変わらないじゃないか、と思われる人がいるかもしれません。おっしゃる通りなのですが、現場の管理者は能力も個性も違うので各自のやり方で採用して育てていくことになり、結果としてそれぞれの「流派」が出来上がってしまいます。

やがて、同じ会社にいながらにして流派同士の争いになってしまい、政治力の強い流派が勝ち残り会社が分裂していくのです。それが会社の競争力をつけることになるのであれば良いのですが、ほとんどの場合はそうではありません。ですから、企業体として統一した規格になるように、同じやり方で採用し、教育を行い、日ごろの行動や目標を管理し、信賞必罰でルールに則って人を裁いていくのです。

また、現代社会であれば、社内の人材や組織に依存しなくても、専門のプロスタッフや外部委託といった形で機能をアウトソーシングできるようにもなってきています。そういった意味では、内部だけでなく社外の人・組織を上手く活用することも人事の仕事、ということになるでしょう。

こうして、経営者のカリスマ性や個々の管理者の個性に依存せず、長期的・永続的に事業に寄与する人と組織を意図的に作り上げ、管理していくことが重要となります。その業務を行うことになるのが人事部門なのです。ですから本来、人事部門が無い、または担当者がごく少人数という状況はおかしな話で、人・組織を管理する部門は相当大きくなるはずです。

では、上記のように「人事という仕事がわかった」としても、実際には一つも上手くいくことはありません。なぜかというと、人事のイメージを仕組みや運用に落とし込むことは難しく、経営者が認識できない、又は現場で実践できない、という大きな壁が存在するからです。当社が日々戦っているのも、この「認識できない・実践できない」という壁なのです。

こうした現象が起こる背景として、物の開発や製造、販売、サービスの提供などといったビジネスモデルに基づくものが「何個・何人でいくら」「同じ品質のものが何個」とわかりやすいのに比べて、組織・人材に基づくものは「同じ人間と言っても稼げる人間とそうでない人間がいる」「同じ組織と言っても品質は全く異なる」という「感情や欲を持つ、異なる能力・意欲の人間」「そうした人間の集まり」を相手にしていることが挙げられます。

2019年までの働き手の減少による人手不足から、2020年のコロナ禍で人余り時代に突入すると言われたにも関わらず、実際には一部のサービス業を除いては大して人余りにはならず、2008年のリーマンショックほどの景況感には至ってはいません。ただ、それもこの先の状況次第ですから、まさしく変動的で不透明で不確実な世界になっているといえます。

特に日本においては少子高齢化がますます進み、企業単位で見ても年齢別の従業員構成に大きな歪みが出ています。社員が退職したらまた採用すればよい、と漫然に考えていると、必要な現場で必要な働き手が不在となってサービスを提供できなくなる「労務倒産」に陥ったり、コロナ禍のような状況にあっても休業手当を目当てに仕事をサボり権利ばかり主張する従業員ばかりの「ゾンビ企業」へと転じる会社が増えてくるでしょう。

本来であれば、ビジネスモデルをどうするか?ということもさることながら、「どうやってビジネスモデルを実現する人材を増やすか?」にもっと焦点を当てないと企業が立ち行かなくなります。

よって、優秀な人材だけでなく安定的に勤続してくれる人材を獲得することも非常に重要になりますし、入社した人材をいかに定着させるか、またいかに戦力に育て上げるかが企業の命運を握っているといえるでしょう。

次回からは、「企業経営から見た人事の役割」にフォーカスしていきたいと思います。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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