【保存版】人事の仕事 人の性質と扱い方について(後半)-連載コラム-

前回は、人事施策を推進する中で出くわすことが多い、人の性質について5つをご紹介しました。これらを踏まえたうえで、人事が取るべき態度について後半にまとめていくこととします。実際にこれらのことを実行しようとすると、頭ではわかっていてもなかなか実践できない、といった類のことが多いかもしれません。

私自身も、企業勤めをしていた時分はかなり気性が荒く、お世辞にもできている人間とは言えませんでした。起業後に自分自身と向き合わざるを得ない状況が多々あり、今に至っているともいえます。

そうした意味では、時間と経験が必要と言えるかもしれませんが、一つの目安として以下の8つの動き方を意識していくことでより良い仕事に繋げていくことができますので是非活用されてください。

人事が取るべき態度① 好奇心を持って人と接する

人事は、人事領域のことだけでなく、経営から現場のことまで広く興味・関心を寄せて情報を吸い上げておく必要があります。結構多いのが、「自分は○○の担当なので」と自身の業務範囲を限定的に捉え、部署内・個人だけで仕事が完結しているケースです。これはもったいないことと言えます。

たとえば、採用担当であれば、採用という視野を広げて前工程・後工程に関心を持ち、人員計画はどうなっているか、採用の後の定着フォローはどうなっているか、に興味を持って様々な人と対話していくと、今の採用の在り方が変わってくるでしょう。

また、色々な業界を見てみることも大切です。足繁く通えとは言いませんが、異業種交流会や経営者の集まる勉強会、人事とは全く関係のない無料セミナーなどに参加していくと、違う切り口で自分の業務が見えるようになってくると思います。

好奇心を以て見聞を広め、自分の業務に還元して活用する、というアプローチです。

逆に、マニアックな人事のトレンドにしか興味を示さない人や、頭で考えるだけで全く提案や行動をしない人は、行き詰る確率が高くなります。そうした場合、経営者や現場からは遠い存在の人となり、「何をしているのかわからない」「どんな成果を上げているのかわからない」という評価をされ、頼りにもされなくなります。

常日ごろから「人」に好奇心を持ち、その背景を自分なりに研究・分析し、「人のために」行動できるようにしておくことが重要といえます。

人事が取るべき態度② チームで良いものを作り上げる姿勢を持つ

人事は、経営者や現場管理者、そして従業員と一体となって人事施策を作り上げていく必要があります。

人事メンバーだけで施策を作り上げても、結果的に経営者や現場に喜ばれなかったり、定着しない可能性があるのです。経営者や現場管理者、従業員が「これは自分が関わってできた仕組みだ。だから、実践しないと自分にウソをつくことになる。」という実感・愛着が生まれることが人事施策の成功の秘訣だからです。

特に、社外から関わる人事コンサルタントの場合、担当窓口となる人事担当者や責任者と共に二人三脚で作り上げていくことが多いですが、どうしても複雑なものになりやすく現場で運用しづらい形になっていることが多いといえます。

ですので、適宜関係者と情報共有し、検討している内容についてフィードバックをもらいながら軌道修正し、会社の関係者ができるだけ多く納得できるような状態に持っていく(=チームや組織全体で作り上げていく姿勢)が何より重要といえます。

人事が取るべき態度③ 客観的に見て主体的に関わる

経営者や現場従業員に理解を示しつつも、「第三者としてこう見えるので、変えたほうが良いのではないか。この部分なら役に立てると思う。」というポジティブな態度(何か相手の役に立とうという心がけ)が必要になります。

問題意識を持つことはとても良いことですが、単なる愚痴や批判、不平不満に終わってしまっては状況を改善することはできません。よくある悪いケースとしては、批評家となって愚痴や不平不満を言うことで会社に対するネガティブな見方が広まり、ムードが悪くなっていくというものです。

行動を起こさず、評論家・批評家のようにそれらしく正論を並べたてるのは誰でもできます。人事は営業や工場と違って目に見える成果を上げづらく、周囲からは理解されづらい業務ですから、より一層、他部署から見ても「助かるよ」と言われるような動きをしていくことが重要です。

たとえば、現場責任者の愚痴・不平不満を受け止め、「いやぁ、○○課長は本当にうちの会社になくてはいけない存在なんですよ。そんな批判、気にすることないですよ。」などと承認するだけでも、相手からすれば救われた気分になり、信頼感が増すのです。

実際、現代社会では「気持ちを吐き出す場がない」「承認される場がない」と言う状況がどこの会社にも起きていますから、人事が責任者・リーダークラスの受け口になるだけでも、どれだけ救われるかわかりません。下手な人事施策を打って現場の工数を増やすよりも、よほど良いといえるでしょう。

人事が取るべき態度④ 敬意を払いつつできるだけ本音で話す

どんな相手であっても敬意を払いつつ、自分の考えや想いを失礼にならないよう伝えることが大切です。特に、「やる・やらない」「できる・できない」「したい・したくない」は、明確に伝えたほうが良い結果につながりやすいといえます。

遠慮してしまって言いたいことが言えない、つい回りくどく言ってしまう、という方もいらっしゃるでしょうが、やりたくないのに引き受けてしまって、どうにもならない状況で白旗を上げることになってしまったり、トライしてみたいと思いつつ経験不足を理由に腰が引けてチャンスを失ったり、とマイナスな結果に終わるので、思いきって伝えましょう。

経営者や現場管理者は多忙なため、「結論先行→理由や具体例説明」という流れで話してほしい、という要望が多いのが事実です。相手の立場や状況を考慮すれば、タイミングを逃さずにズバリ相手に伝えるほうが良いといえます。

また、経営者は立場上、どうしても大義を語らなければならない状況が出てきます。
例えば、従業員を酷使しているにも関わらず、「従業員は大切だと考えている」などと語るような場合です。本来そうあらねばならない、そうあるようにしていきたい、という理想を語っているのですが、言葉尻だけを聞くと、現場をよく知っている関係者はその姿勢に疑念を抱いてしまいます。こうした気持ちの積み重ねがシラケにつながり、従業員の定着率悪化を招いていることもあるのです。

実際、従業員のシラケに気づいていない経営者はかなり多いですので、人事担当者や責任者はその言葉の意味をしっかりと現場に伝えて調整を図ったり、人事コンサルタントが現場に居合わせるような場合には、第三者の特性を活かして経営者に不要な発言を改めるよう諫言してもらうと良いでしょう。

人事が取るべき態度⑤ 肩入れし過ぎずに適度な距離感で接する

会社の中にはいろいろな立場で仕事をしている人がおり、互いに利害関係があります。部門間や上司部下間、労使間などです。

経営者や現場従業員などと話をしていくと、当事者の心情がよく伝わってきて、相手に感情移入してしまう、又は相手に同調してしまう場面があります。特に、経営者が資金繰り等で腐心しているような場合、現場従業員に業務負荷が大きくのしかかって精神的・肉体的に苦労しているような場合などです。

ここで、当事者のどちらかに肩入れをし過ぎてしまうと、企業が進むべき道と人事がそこで果たすべき役割の両方を見失ってしまいます。結果、現場従業員に過度な負担を押しつけることになったり、逆に経営批判をすることになったりして、会社を良くしていくはずの人事施策が頓挫してしまうことになります。

また、経営側、現場側いずれか一方だけの話を鵜呑みにして、先入観を持ってしまうこともよくありません。トラブル案件における加害者と被害者も同じことです。必ず、双方の意見・主張をヒアリングするようにしましょう。これが先入観をもって一方的な対処になると、またしても人事としての公平さに欠ける(信頼を失う)行為になってしまいます。

よって、両者の立場や利害、気持ちを理解しつつも、肩入れし過ぎず適度な距離感を保つことが大切であるといえます。

人事が取るべき態度⑥ ゴールと役割をハッキリさせる

人事施策を推進していくには、「どのような人事施策にするのか」というゴール、「いつまでに導入するのか」という期限、そして「誰が何を担当して完遂するのか」という役割を明確にする必要があります。

これが曖昧なまま進んでしまうと、途中で道を逸れてしまう、導入が後ろ倒しになってしまう(又は途中でプロジェクトが消滅してしまう)、また、担当者や責任者が不在になり進まない、という事象が発生してきます。

社内の人事担当者であれば、自身が主体となって提案していくことになるため、ゴールや期限、役割という点ではあまり大きな問題にはなりません。しかし、人事施策を推進する要所ごとに、経営者に意思決定してもらう必要がありますので、判断基準をしっかり持ってもらうという役割分担が重要になるといえます。

社外から関わる人事コンサルタントは、経営者の思いつきやその場の感情、強い押しに流されてしまってゴールや期限、担当窓口との役割分担を明確にしないままに人事施策を推進してしまうことがあります。
そうした握りがないままに進めた場合、「いつになったらできるんだ」と催促されたり、「自分がイメージする人事施策ではない」と言われたり、また担当窓口から「自分が担当するとは思わなかった」などの話で戸惑うことになってしまうのです。よって、ゴールと期限、役割分担はプロジェクト当初で握るべき必須事項であるといえるでしょう。

人事が取るべき態度⑦ 主役だが、主人公ではないという感覚

人事は、人事施策を推進するうえでは主役級であり、主体性を発揮してプロジェクトを成功に導く役割があります。

しかしながら、人事施策を運用していくことで業績向上や理念実現の恩恵を受ける主人公は経営者であり、またヒーローは現場従業員である、という認識を持っておく必要があります。

人事が主人公となって作りたいものを作る、という認識でプロジェクトを推進してしまうと、結論ありきで恣意的に説得するような提案になってしまい、ひいては利害関係者との確執を生んでしまうことになりかねません。
また、専門用語を連発して、相手に理解・納得させないままに議論を進めるのも良くありません。お客様は経営者であり、また現場であるという気持ちを強く持つようにして取り組みましょう。

人事が取るべき態度⑧ こだわり過ぎない

こだわりを持つ、ということは非常に重要です。
限られた期間の中で、高いレベルの提案をしていこうという強い気持ちが、他社事例や理論・理屈の学習へとつながり、自社またはクライアントにより適した人事施策に結びついていくからです。

ただし、人事が考え抜いて「これが正解だ」と辿りついた結論であっても、それがそのまま経営者や現場に受け入れられるかは正直わかりません。特に、納期は差し迫っているのに全く意思決定されない、スケジュールを空けてもらえない、挙句にもう一度やり直してほしいと言われる、などのケースは相当のストレスになります。

そこで、これまでの努力が徒労に終わったなどの報われない感覚から、「何でこんなことも理解できないんだ」と見下すような態度を取ってしまったら、それこそうまく進むプロジェクトが進まなくなってしまいます。
ですから、受け入れられなかったり否定されたとしても、「ここで、いちいちこだわっていたら、身が持たない。」「じゃぁ、どうやれば受け入れてもらえるだろうぁ。」と気持ちを切り替えるようにしましょう。また、プロジェクトが順調に進まないことを想定したうえで、あえてリードタイムを長めに設定するのも良いでしょう。

さらに、経営者や責任者の依頼に沿い、多くの時間と労力を割いて作成した人事施策の提案資料がほとんど使われないというケースも出てくると思います。ラフ案を少しまとめた程度で水面下の交渉に持ち込み、大方の賛同を得てから清書すると余計な時間と労力をかけずに済むかもしれません。

以上、人事が取るべき態度として8項目を取り上げてきました。
ここで述べたことは、人事という職種に就いている方だけでなく、ビジネスマンであれば多くの方に当てはまることかもしれません。

身を粉にして打ち込んだり、仕事に命や誇りを賭けているような人が、ぶち当たっている壁が上記の中にあれば、ぜひともこれを機会に頭を切り替えていただいて、前進してもらえれば幸いです。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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