【保存版】人事のプロが紐解く経営組織論② 組織の生成と発展について(前編)~-連載コラム-

私たち人事コンサルタントは、クライアント企業を俯瞰して見る時、まずはその組織の成り立ちである沿革や社史を「その会社の履歴書」としてチェックするようにしています。

採用面接でいえば、面接官が採用面接で応募者の履歴書を見る時、応募者が「どのくらいの学力を有しているか?」「どのような企業でどのような業務に従事してきたか?」「何社くらい経験してきたか?」「どんな成果を上げてきたか?」といったことを確認しますよね。
それを面接で深掘りして揺さぶりをかけていくと、「本人の元々持っている資質」「本人の思考回路」「本人が何に耐えることができて、何に耐えられないか」「本人の得意分野・不得意分野」などが見えてくるわけです。

会社もこれと同じと言えるのですが、たとえば、一つの事業が上手くいって多角化を図りM&Aを繰り返してきたような企業は概して一体感や事業への思い入れが薄く、目先の数字をちょこまかと動かすばかりで業務や顧客に対して他人事になりやすいため、そこで働く従業員もそんな感じの従業員が多いといえます。
また、事業拡大過程で役員同士が揉めて分裂したような企業は、経営者や従業員が何らかの心の傷を負っているケースが多く、いつも同じような壁にぶち当たって事業拡大が阻害されていたりします。

ですから、企業の組織風土をどのように作っていくか、どのような歴史を刻んでいくか、は非常に重要でして、本当に優良な企業組織を作ろうとするならば、「理想とする在り方・関わり方」を経営者自らが実践し続けていって、非常に長い時間軸の中で貫いていく必要があるといえます。

その最たる会社の一つが京セラでしょうね。明確なフィロソフィがあり、それが明文化され、組織文化として従業員を感化させて受け継がせているといった企業は非常に珍しいといえます。一般書籍としても販売されているので、読んだことのない方は是非一読されると良いでしょう。

組織の生成と発展について

それでは、会社組織はそもそもどのような過程を経て成長し発展していくのでしょうか。まずは集団が組織へと発展していく生成プロセスを紐解いてみます。

1.集団発達

単なる人の集まりにその集団らしさが加わり、組織へと発展するプロセスを「集団発達」と呼びます。これは、一般的に以下のような特徴が現れてくることが知られています。

①対面的熟知性

まず、人と人との出会いの中で意気投合したり、ビジネス上の関わりから苦楽を共にすることで、メンバーが互いの人となりを理解するようになります。これを対面的熟知性と呼びます。
そして、「このメンバーは仲間であるか、そうでないか」がハッキリと区別されることとなります。

②一体感の知覚

同じ体験・同じ場所・同じ気持ちを一定時間過ごしていくことで、メンバーの気持ちの中に、「私たち」という感覚が生まれるようになり、集団の内と外の境界を区別できるようになってきます。これが、「一体感の知覚」です。

③目的・目標の明確化

やがて、集団の共通目的や目標が語られ、(暗黙的・明示的に)共有されていくことで、メンバーが意識するようになり、目標達成を中心としたメンバーの行動が見られるようになります。これが「目的・目標の明確化」です。

④情緒的・認知的・行動的相互作用の促進とフィードバック

メンバー間でのノウハウ共有や情報交換、心の交流が促進されることで、集団に一定の規範(=ルール、組織風土、組織文化)が生まれていきます。

⑤規範の共有と同調への圧力

組織の規範が明確になることで、メンバーはそれに従うことが要求されますが、これを「同調圧力」と呼びます。所属するメンバーが規範に同調しない場合、その多くは結果的に集団を離れることとなります。

⑥役割や地位の分化

組織のメンバーそれぞれに明確な役割が固定化するようになり(=分業化)、さらにリーダーとフォロワーという地位も分化してきます(=階層化)。これが「役割や地位の分化」であり、組織の雛形といえます。

⑦地位階層の段階的分化

固定的な役割や地位が発展して上下関係が明確になり、責任・権限が各自の役割や地位に応じて付与されることで、名実ともに組織となります。

このようにして、当初は単なる人の集まりだったものが、だんだんと組織らしさを帯びていきます。よく「人となりを理解すべきだ」「一体感が重要だ」「会社のルールに従わなければならない」などと言われるのは、集団らしさを維持するために必要であることが理解できると思います。そしてこれは、集団の発展に伴ってその会社の強固な組織風土となっていきます。

2.組織の発展(ライフサイクル)

では、組織はどのような発展を遂げていくのでしょうか。これを自然界の法則から導き出した人がいます。ポリオワクチンを発明したジョナス・ソークです。ソークは、ショウジョウバエの繁殖について研究しているときに、一定の環境下において、あるパターンを見つけました。ハエと組織が似ている、というのが何ともユニークですが、着眼点としてはとても良いですよね。

ソークによると、ショウジョウバエは当初、一気に増殖していきますが、その環境でそれ以上増殖しても個体を維持できない数に達すると繁殖パターンを変えて増え方を自然に抑制し生き延びようとしていきます。
そして、このデータを蓄積していくと、S字曲線を描くことがわかりました。これは自然界のことだけでなく、人間そのものやビジネス(製品やサービス、事業、組織)においても適用できる法則であると発見したのです(図.参照)。

実際に見ていただけるとわかると思いますが、このソークのS字曲線は、組織のライフサイクルというよりも、マーケティングでよく出てくる「プロダクト ライフサイクル」としてよく知られています。(そして、時代を経て現代では、より短期間化・短期スパン化しており、爆発的に増殖し下降していくようになっています。)

これは、大きく4つのステージを経て説明され、「無垢」「能力獲得と自信」「熟達」「下降と崩壊」と名づけられました。それぞれは事業や組織の発展に照らし合わせると以下のようなものになります。

①無垢ステージ

S字曲線の「無垢」ステージは、創業者が「もっと稼ぎたい」「アイディアを実現したい」「自分にできるだろうか」等と考え抜いた挙句、自分の実力または自分のアイディアがビジネス社会で受け入れられるだろうと信じて身を投じること(独立・起業)により、創業メンバーと組織を立ち上げた初期段階を指します。

この初期段階では、組織として使える資源や予算、人員が非常に限られているため、その範囲でベスト・パフォーマンスを出せる選択肢を模索します。アイディアを実現するために短期間でトライ&エラーを繰り返すこととなり、また事業構築プロセスを経験することで成長実感も得られるため、創業メンバーは一人何役もこなしながら長時間働き続け一定の成果を出すようになります。

②能力獲得と自信ステージ

「能力獲得と自信」ステージでは、成果を上げるパターンを組織として学習することで業績が上がるようになります。ビジネスモデルが確立されてきたこの段階で、業績を一気に引き上げようとして人員を増やしますが、組織が膨れ上がることで統制が取れなくなる時期でもあります。

創業者は、幹部一人当たりが管理する人数(管理スパン)を調整するために、階層化を進め、さらに管理しやすいように地域や役割別の部門を作ることとなります。

階層や部門が生まれることで関係者間のコミュニケーションが煩雑になるため、共通認識を作るための週次や月次の会議といった公式な決まり事ができるようになります。また、事業としては、優れた製品やサービス、またビジネスモデルであるとして市場から一定の評価を得ることとなります。その評価が新たなビジネスチャンスにつながったり、もてはやされるために組織のメンバーが自信を得ることとなり、さらなる成功につながる行動が促進されるようになります。

③熟達ステージ

「熟達」ステージになると、その事業と組織が出せる最高のパフォーマンスを出すようになり、創業者を始めとして組織メンバーが成功体験を味わいます。事業を拡大する組織の管理体制が整備され、知名度も高まり、これまでのような苦労をしなくても比較的ラクに業績が上がるようになります。業績が上がることで給与も高まり、「自分たちがこの分野をリードしているんだ。」「これからも市場をリードするんだ。」という強い自尊心が生まれます。

しかし、この段階にくると組織内部で大きな異変が生じます。誰が主導権を握るのか、という動きが活発になり、階層間や部門間といった利害関係者同士が争うようになります。こうなると、市場環境の変化に合わせた新しいアイディアや事業は埋もれてしまい、さらなる成長のチャンスを逃すこととなってしまいます。

これは組織が大きくなり分業化が進んだことで、考え方や価値観に大きな違いが生まれ、「この成功を維持するには、自分のやり方で進めるのが正しい。他者に任せるわけにいかない。」といった自己防衛本能が働くからです。

④下降と崩壊ステージ

「下降と崩壊」ステージになると、組織メンバーの我と慢心による「怠惰」、組織内部の主導権争いによるメンバーの「シラケ」が蔓延していきます。こうしたことから、本来であれば組織変革に貢献するはずの優秀な人材が組織を離れるなどといった現象が発生します。

また、事業としては市場環境が変化していることに気づかず「成功体験」にしがみつくことで、事業や組織の優位性が失われてしまい、競合他社や他のサービスに取って替わられてしまいます。組織と事業の双方が立ち行かなくなることで、組織全体が疲弊感や空虚感に苛まれ、文字通りの下降と崩壊へとつながっていくこととなります。

こうした下降と崩壊を防ぐには、組織体制をステージに合わせて整備すること、既存事業の標準化・効率化を進めて利益体質にすること(場合によっては事業の売却も)、そして新規事業を立ち上げてS字曲線を新たに生み出すこと等が必要になってくるわけです。

さて、ここまでソークのS字曲線をベースに組織の発展について述べてきました。どのようなプロセスを経て組織は生成され、そして発展していくのか、の概観が理解できたのではないかと思いますし、皆さんがこれまで様々な組織に所属してきて、ぼんやりと感じていたことがハッキリと見えてきたのではないでしょうか?

ここからは文字数的に非常に長くなってしまうため、後編としてラリー・グレーナーを取り上げながら、「組織の各発展段階における危機とその乗り越え方」にフォーカスしていきます。
皆さんの所属する組織がどの段階に位置しており、そして組織としてどのように危機に対応していくべきか?どういった道筋があるのか?を理解してもらう一端にしていただきたいと考えています。

ここまでお読みいただきましてありがとうございました。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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