【保存版】人事のプロが紐解く経営組織論① 組織の定義について~-連載コラム-

今回、組織を経営または運営していくうえで、組織というものを人事実務の視点から紐解いていきます。今後、この組織の定義を皮切りに、組織の発展、組織風土の醸成、組織形態の在り方、組織が有効に機能するための要素、人員計画の作成から人事制度に至るまで、私たちが実際に企業支援する際の実務知識をお伝えしていきます。ぜひ、ご参考にされてください。

人事コンサルタントは組織をどう見ているか?

組織研究という観点でいえば戦前から軍隊組織にまつわる研究が存在しますが、よりアカデミックな研究としては心理学・経営学に属する分野でして、日本では1950年代くらいから研究がなされています。ただ、ここでお伝えしていくのはアカデミックな内容をそのまま伝えるというより、それを実務に落とし込むためのベース(=核となる理論)、と考えていただければ差し支えないです。

とある企業で、新卒社員を育成・ケアするためのメンター制度を導入しようとしているとしましょう。すると、私たちとしてはその施策が「機能するかどうか?」を判断するために、ベースとなる理論を(ほぼ無意識的にですが)いくつか当てはめて打ち手を考えているといえます。

たとえば、

①組織風土の切り口だと、「とにかく売上・成果重視で個人プレーの風土が根付いているから実際のところは面倒を見なさそう」と判断します。

②組織文化の切り口だと、「個人それぞれのやり方しかできないから、細かい手法をマニュアル的に伝えるよりも、やってはいけないNGワードやNGアクションを伝えよう」と考えます。

③集団凝集性・組織力学の切り口だと、「この会社はパワーマネジメント傾向や組織独自の規範意識が強いから、トップからしっかり落とし込めば多少は有効かもしれない」と判断します。

④人事制度の切り口だと、「業績の中に、部下の休職・退職を減点項目に入れて大きく影響させれば、多少は業務上の優先順位が上がるかもしれない」と考えます。

といった具合です。相手は人であり、組織ですから、それをどう突けば動くか?ということは、「雨が降ったら傘をさす」といった単純回帰的・直線的な発想では上手くいきません。「彼はなぜこの犯行に至ったのだろう?」といった複合因子的・循環的な発想で動いていきます。こうしたことは、口頭や動画では到底伝えられない分野の話なので、文字にしたほうが早いわけです。

つまり、「人事は採用だけするのが役割」または「教育するのが役割」ではなく(もちろん、部署・チームとしてのミッションがそうなることはありますが)、「組織を活性化・強化させ、業績(影響)を向上(拡大)させていくことが役割」ですので、相当幅が広いわけですね。しかも、お金や商品のように黙っているわけではなく、感情や意思・プライドがあって非常に扱いにくい上に表向きに見せている顔と裏側が違うことも多々あります。また、そうした個性を持つ人が集まって集団や組織になっていますから、幾何級数的な要因が複雑に絡み合う話になっており、これが、人事がテクノロジーで扱いづらい所以でもあるのです。

これに果敢に切り込んでいこうとする動きが昨今のHRテック業界であり、研究と商品開発が盛んになっているというわけですね。HRテックについては、当社もテックとアナログサービスを組み合わせたココトレという人材定着支援サービスを展開していますが、実際にこの分野が発展していくことで組織管理や人材管理をしなくて良くなるか、といわれるとそうではなく、(多少はラクにはなるでしょうが)結局は人や組織と向き合わなければならない、ということに変わりはありません。何と言っても相手が相手ですからね。

組織とは一体、何か?その前に。

では、組織とはいったい何でしょうか?
また、どうすれば機能するのでしょうか?

実は、少しだけ立ち止まって、こうしたことを考える機会がとても大切なのです。

私たちがよくクライアント企業で話を伺う際、知的好奇心の旺盛な担当者から「やっぱりこれからはティール組織ですよね」「1on1を導入する際には何に注意すれば良いですか?」といった、手法に関するお話を頂戴します。当然、それについてはこう…とお伝えはしますが、本来、「手法ありき」は間違っているといえます。

たとえば、病院に患者さんが来て、「体の具合が悪いんですけど…。」と言われるとします。そこで医師が、「今、○○という手術が流行っているので、早速手術をしましょう!」と言っているようなものです。そんな医者、怖いですよね(笑)

これを、医師としての立場・レベルで考えるならば、「何が直接的な原因なのかを調べて短期的な処方を行う」のが普通レベルですし、「そうなった本人の生活習慣・思考習慣上の本人要因、業務上・プライベート上の環境要因、親や親戚に似た人はいないかといった先天性要因を複合的にヒアリングしたうえで、中長期的な処方・指示を行う」のが高いレベルと考えることができるわけです。

つまり、医師の世界でいうならば、「身体とはどう機能するものなのか?」「人は本来、どういう身体の状態であるべきか?」を理解して、簡潔に説明できる必要があるわけです。
ですから、人事担当者や人事コンサルタントも、「そもそも組織とは何か?」「組織が機能するためには何が必要なのか?」という原理原則を、簡潔に説明できるレベルにまでしっかりと理解しておく必要があります。

これは、組織というテーマにとどまらず、他の人事領域である採用や教育、人事制度等にも同じことが当てはまりますので、「どうしたら聴く耳を持ってもらえるか?」「わかりやすく伝えられるか?」を意識しながら学習していきましょう。

組織とは何か?その定義とは。

では、少し長くなりましたが、「組織とは何か?」という定義に関しては、これまでの理論を少しだけご紹介しながら考察することとします。

まず、テイラーやファヨールと並んで古典的組織論を展開した一人であるバーナード(1938)による定義としては、組織とは「2人以上の人々が意識して調整を行う、さまざまな活動や力からなるシステム」と定義されています。バーナードは、組織は本質的に組織の構成メンバー同士が協力して働くことで、一人で成し遂げる以上の成果を上げることができるとしており、組織が機能するための要素として「共通目的」「協働意欲」「伝達」の3つを取り上げています。

同様に、馬場(1983)は、組織を「明確な目的・目標を持ち、その達成をはかろうと活動する。」「共通の目標達成のために持続性をもって協働する人々の集まりである。」「目標達成のために、地位・役割の分化、権限の階層などの構造を持つものである。」としています。

他にも種々ありますが、当社では、組織が「目的を達成するための有機的なメカニズムである」と捉えたうえで、以下のように定義しています。

組織とは、「目的を実現するために、2人以上の複数の人が役割を分担し、必要な資源を共有・活用しながら協働する有機的な繋がり」である。

以下に、この定義に含まれる用語について解説していきます。

①目的

人が集まるからには、何かしらその人たちに共通する目的が(明示的であれ、黙示的であれ)ある。また、新規メンバーには目的を共有していくことが必要となる。
一般的に組織規模が大きくなると、様々な目的を持ったメンバーが混在することとなり、目的の共有度合が薄まったり目的そのものが変化することがある。一方で、組織の目的がメンバーにとって自明の理となり、組織風土や文化という形で共有されることもある。

②複数

組織という以上、構成メンバーは複数である必要がある。個人では組織とは言えないが、プロジェクトやネットワークのように、ある目的を達成するために個人が複数集まり、協働する場合は組織と言うことができる。

③役割

組織を構成するメンバーは、分業して何らかの役割を担い、全うすることが求められる。役割が無いメンバーは組織の構成員とは言えず、役割を全うしないメンバーの存在は目的の実現に支障をきたす。役割に対して人数が不足したり、役割を与えない(伝えない)、又は育成や監督が行き届かないといった場合に上記のようなことになる。

④資源

資源とは、事業を営むために必要な「ヒト、モノ、カネ、情報(ブランドやノウハウなどの無形資産も含む)」を指す。アウトプットとしての目的を達成しようとすると、インプットとしての資源が必ず必要となる。つまり、それなりの成果を出そうとするならば、それなりの予算や人材、権限を調達し活用することが重要となる。

⑤共有・活用

組織として資源を共有することで、個人が単独で資源を拠出して行うよりも、目的達成が効率的・効果的に達成することが可能となる。

⑥協働

メンバー同士が意思疎通を図りつつ、協力しながら働くことで各役割に比較優位の法則が働き、個人が単独で行うよりも、大きな成果を作り出すことが可能となる。人数が多すぎる、相性が合わないといったことが原因で意思疎通が図れない場合はその分、期待される成果が小さくなったり阻害されることがある。

⑦有機的な繋がり

駅を行きかう人々のようなものは単なる個人の集合であり、学級のように本人の意図がなく寄せ集められた人の集まりは集団だが、組織となるとより本人が望んで継続的・持続的な関係性を作ることから、人間らしい心のつながりや連携、風土が生まれ、組織全体を形作ることにより組織としての相乗効果が生まれる。また、こうしたものを明示・明文化したものが社内インフラや制度・ルールを始めとする各種システムと考えることができる。

以上のように、組織形態がピラミッド型であろうと文鎮型であろうとプロジェクト型であろうと、それがどのような形態をとっていたとしても、組織として機能するためにはこの定義を満たしている必要があり、最低限は以下のような要素が必要であることが見えてきます。

私たちは、これを「組織の4要件」と呼んでいます。

①目的の共有…組織の目的・業務の目的を共有していること
②役割の分担…役割を分担し、各自が全うしていること
③資源の共有…成果を出すために必要な資源を共有していること
④意思疎通と協働…互いに意思疎通を図り、協働していること
⑤有機的な繋がり(良い人間関係)を築いていること

※上記5については、別途「感情の3法則」として紹介予定。

例えば、経営がうまくいっている企業とそうでない企業とでは以下のように組織の運営の仕方が異なっています。身近な組織に当てはめて考えてみてください。その違いがよくわかると思いますし、こうした点に着目して、改善を図っていくだけでも相当な組織変革が可能となるでしょう。

ところで、世の中には個人事業主や一人親方といった、一個人が単独で業務を遂行しているケースもありますよね。組織であることまたは個人であることのメリットやデメリットには、どのようなものがあるでしょうか。簡単ですが以下にまとめます。

こうしてまとめていくと、個人と組織のどちらを選択するかは、目的や価値観、目指す規模や必要な資源などの影響を受けて決定されると考えることができます。

例えば、非常に高い能力や芸術性を持ったデザイナーであれば、その熟練した高い市場価値のスキルを武器に個人事業主として活躍することを選択したほうが理に適っていると言えます。
逆に、独自性・市場性が高い商品を店舗販売するのであれば、ブランディングを行って組織化を図り、全国に展開するほうが理に適っていると言えるでしょう。個人であれ組織であれ、そのメリットを最大限享受できるように事業を組み立てていくことが必要といえます。

以上が、組織の定義とその考え方、となります。組織の定義をしっかりと押さえていただき、自社に当てはめて再度、上手くいっている点とそうでない点を熟考いただければ幸いです。

一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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