【保存版】人事のプロが紐解く経営組織論⑤ 組織風土の醸成メカニズム -連載コラム-

今回は、組織風土はどのように作られていくか?組織に関わるパワーバランスとメカニズムにフォーカスしていきます。

ざっくり結論からいうと、組織風土は「過去から現在に至るまで、上司と部下がどのような関わり方をしてきたか」で出来上がるムードですから、もしそれを変えるのならば、「現在から未来に至るプロセスで、上司と部下がどのような関わり方をするか」によって変えることができる、ということになります。

たとえば、簡単な話でいうと、熟年離婚の危機が迫っていて互いに口を利かない状況が数年続いている夫婦がいるとします。もし、これを変えようとするのならば、会話をしないよう互いに遠ざけている関係を、ぶつかろうと何しようと会話をしていく関係が問題解決には欠かせない、ということになります(普通は何か大きなきっかけがない限り、なかなか難しいでしょうが…)。

もし、これから夫婦になる二人であれば、家族という組織を長い時間をかけて作っていくわけですから、互いに良いムードを維持するための絶対的ルールを決める、というのが良いでしょう。
たとえば、「喧嘩をしても次の日にはおはようと言って挨拶すること」「嫌なことがあったら必ず話し合って解決すること」「日頃から互いに感謝の言葉を伝えあうこと」「ルールを破ったら好きなブランド物を相手に買い与えること」などです。こうしたルールを決めて互いが守る夫婦ならば、馴れ合いで成り行き任せの夫婦よりもよほど強い絆で結ばれていきます。そういう組織風土を意図的に作っているからです。

残念ながら上記のルールは我が家のものではありませんが(笑)、似たような約束事があって、それが我が家らしさを形成しています。ですから、夫婦間でもより良い家族の未来を作るために建設的な議論をしますし、子どもたちも小さいながら次々に意見とそのロジックを述べていきます。つまり、そうしたオープンな議論を行うように組織風土を築いており、同時にそれが子どもの教育にもなっているのです。

では、これを企業という組織体に置き換えて考えてみましょう。

「企業の歴史が長い」「階層や機能別部門が多い」「官僚的形式主義が行き過ぎた組織」であればあるほど、そこにいるメンバーの共通認識(共有された価値観、信念、規範)は固着化し、独特の文化や風習になっている(=ガラパゴス化)ということになります。面白いことに、ほぼ全員が無意識にこの独特の文化や風習に従い脈々と受け継がれていきます。

実際、在籍するメンバーが現状に違和感もなくしっくりきているのならば、これを変えることは経営者層や管理職層に相当の覚悟とパワーが必要となります(これが悪しき習慣を断ち切る動きであれば、一般には「膿出し」という言い方をします)。

ですが、従業員上がりで出世競争を勝ち上がってきた経営者や管理者にはなかなかできることではありません。なぜならば、自らの立身出世の重要度が高く、自分の代で波風を立てるよりは次の世代に課題を持ち越したほうが自身にとって綺麗な経歴となるからです。また、売る物から仕事の進め方、仕事に対する考え方まで変えるとなると、現場からは「面倒だ」「意味がない」「業績が落ちる」「非効率」などと抵抗や反発は必至となります。ですから、腐ったものに蓋をしてしまうのです。

結果として、こうした企業は硬直化し、外部市場の変化に対応するのが困難になってきます。不思議な話ですが、世間でどれだけ騒がれようとも、ニュースでどれだけ取り上げられようとも、外部市場よりも企業内ルールのほうが優先されてしまうのです。

当然ですが、外部市場の変化に対応するのが困難であればあるほど、組織としての寿命は短くなっていきます。一時期は大きなパワーを持っていたとしても、中長期では他の商品やサービスに取って替わられることとなり、やがて顧客から選ばれなくなります。

しかし、仮に顧客から選ばれなくなったとしても、一定レベルの市場シェアを握っている以上は、硬直化した組織はなかなか変化できません。人はその心理上、一度出来上がった安定を崩されることに強い抵抗を示すからです。数年先を見る経営トップと目の前を見る現場従業員とでは仕事の時間軸が違いますので、中長期で見た場合の自社の優位性を保とうとすれば、組織変革に着手していかなくてはならないタイミングが訪れることとなります。

そこで、経営トップと経営幹部は一枚岩となって、組織変革に対して強い信念を持ち権限を振るいながら、組織全体に変革のメッセージを発信しメスを入れ続けていかなければなりません。場合によっては多くの従業員が会社を去ることになったとしてもやり抜く、という覚悟が無ければ変革できないのが組織風土であるといえます。

シャイン(Schein ,1990)は、「組織文化はリーダーによって創造され、リーダーシップの最も決定的な機能の一つが組織文化の創造、マネジメント、破壊である。リーダーシップと組織文化は同じコインの表裏の関係にあり、リーダーが行う本当に重要なことは唯一、組織文化を創造しマネージすることである。」と述べています。

まさしくその通りで、組織風土の変革は、現場の一社員や管理職では到底成し遂げられることではなく、経営トップが唯一成し得ることであるといえます(ここでは、組織風土と組織文化という言葉を、メンバーの行動を動機づけ方向づけていくという点で共通することから同義のものとして扱っています)。

では、経営者や管理者は、どのような点に注意して組織風土を醸成していけば良いのでしょうか?本来であれば、学術的な研究を引き合いにメカニズムを述べようとしていましたが、理屈が難しいだけで得られるものが少ないので、方法論として具体的なものを2つ、ご紹介したいと思います。

カウフマンの組織を機能させるためのマネジメント

カウフマン(2012)は、組織風土を改善し、組織を機能させるためのマネジメントについて6つの原則をまとめています。チームをうまく機能させるということを端的によく捉えており、実践的です。これは、組織のライフサイクルにおける「下降と崩壊」や「官僚的形式主義」を脱して新たな成長曲線を描くためにも必要な手法といえるでしょう。以下にその原則を引用します。 

①すべきことを迅速に高品質で達成できる人を募集して、最小グループを作る。

比較優位は、一部の人々が他の人々よりも特定の仕事をうまく達成することを意味するので、その仕事に対して最高のチームを起用することには、時間と資源を投じる価値がある。
ただし、チームを大きくしすぎてはいけない。3~8人のコア人材を超えてメンバーを追加するたびに、コミュニケーション費用(※)が業績の妨げになる。少数精鋭チームが最もよい。
※コミュニケーション費用:管理スパンと同義。人数が増える度に激増する、共通認識を作るための対話量(時間と労力)。企業では通常、組織を階層化することでこの問題を回避しようとする。 

②望ましい最終結果、責任の所在、現状について明確に伝える。

チームの全員がそのプロジェクトに関する司令官の意図、それが重要である理由を理解し、各人がそのプロジェクトのどの部分の責任を担うかを明確に知らなくてはならない。そうしないと、傍観者の無関心(※)を招く恐れがある。
※傍観者の無関心:大勢の中では「誰かがやってくれるだろう」という心理が働き、誰もが成果を上げるための必要な行動を起こさず関心も示さない、というもの。 

③敬意をもって人々を扱う。

ゴールデン・トリフェクタ(感謝、礼儀、尊敬)を常に用いるのが、チームメンバーに自分が重要な存在だと実感してもらう最良の方法だ。また、リーダーやマネジャーとして尊敬を勝ち取る確実な方法でもある。相互に支え合う状況で一緒に取り組むようになるほど、仲間意識が自然に芽生え、チームの結束力がより強くなる。 

④全員ができる限り生産的になれるような環境を創り出し、自分の仕事に専念させる。

最もうまくいく環境は誘導構造(※1)を最大限に活用している。最高の機器や可能なツールを提供し、環境面からチームの仕事を確実に補強する。認知切替えペナルティ(※2)でエネルギーが奪われるのを避けるため、必須ではない官僚制度や会議などの邪魔になるものからできるだけチームを保護する。
※1 誘導構造:行動を変化させるには、個人の意思や直接的な行動を変えるのではなく、環境構造を変えることで自然と行動が変わるように誘導すること。
※2 認知切替えペナルティ:雑務に時間や労力を取られる度に頭を切り替えるエネルギーを必要とし、結果として生産性をロスするというもの。 

⑤確実性と予測に関して、非現実的な期待を慎む。

プロジェクトの達成に向けて意欲的な計画を策定するが、不確実性や計画の見積りの甘さにより、当初の計画はほぼ間違いなく、いくつかの重要な点で不完全や不正確になることをあらかじめ理解しておかなくてはならない。途中で学習したことを用いながら計画を更新し、必要なトレードオフが生じれば、常にパーキンソンの法則(※)を再び適用して、その仕事の達成に向けて実現可能な最短ルートを見つけるようにする。
※パーキンソンの法則:期限は、仕事量で決めるといつまでたっても終わらないため、短く設定したリードタイムにすることで工夫が生まれ能力が身につく、というもの(実際そうするためには、優先順位づけや選択(拾うものと捨てるもの)の権限が必要になる)。 

⑥測定を通して実施内容の有効性を確かめ、あまり有効でないときには別のやり方を試す。

よくある誤解の一つは、効果的なマネジメントをすれば学習が不要になる、というものだ。このマインドセットは、当初の計画は100%完璧で忠実に従うべきものとみなしている。真実はその反対だ。効果的なマネジメントは学習するための計画を意味し、常に途中で調整を図っていく必要がある。少数のKPI(重要業績評価指標)を用いて常に業績を測定し、やってみてうまくいかない場合は、別のやり方を実験してみること。 

ココロデザイン流 感情の3法則

これは、当社に関わる人事コンサルタントたちが研究を重ねて辿り着いた「組織風土を土壌から良くしていくためのシンプルな3つの法則」です。 

当社(ココロデザイン株式会社)では、スタッフは皆、互いに敬意を払いながら建設的な意見を言い合い、許容される範囲内で自律して行動していますが、それは組織風土そのものがそうなるよう以下の3つを常に意識して伝え、時に演出しているからです。

①安心の法則

人は「自分はここに居て良い存在なんだ」と感じると、余計なストレスを感じずに安心感を抱いて働くようになります。近頃は、Googleの心理的安全性研究に端を発して有名になってきましたが、職場の中に安心感があることで、臆すことなく意見や提案を述べることができるのが人間の性といえます。 

実際、パートやアルバイトは所得制限などの諸条件から、自らの立身出世にはあまり関心がありません。彼らの定着に及ぼす要因は、「安心できる職場かどうか?」なのです。そして、これはパートやアルバイトに限った話ではなく、社員も同じです。

つまり、「日頃からのねぎらい・感謝の言葉」を上司が各個人に掛けていくことで、「頑張りを見てもらっている」「自分の存在を認めてもらっている」と安心感を醸成することができる、ということです。実際、部下がいなければ自分がしないといけないわけですから、出来栄えが自分の思ったレベルの品質でなくても代わりにやってくれていると考えれば、まずはねぎらうことから始めることです。その後に多少の嫌事を言われるのならば、部下も受け止めることができるものです。

言葉としては、「○○してくれてありがとうね。」「気遣ってくれて助かるよ。」「○○の時は大変だったね。お疲れ様。」「最近、○○をよく頑張ってるね!」といった具体的な言葉かけです。

②充実の法則

人は「自分がやっていることが充実している・手応えがある」と感じるほど、モチベーションを高めて働くことができ能力を飛躍的に高めることができます。具体的には、顧客や同僚からのフィードバックと期待、何らかの形や成果物になった証、成長している実感、考えや提案の承認などがあった時です。 

ただし、これらのことは、本人の感性や認知能力、前向きさに依存するために、大きな個人差がありますので、明確に言葉に出して部下に伝えていく必要があります。そして、それが結果的に「褒める」行動になっているのです。

具体的な言葉としては、「○○ができるようになって良かったね。」「○○は得意分野にできそうだね。」「○○の時はいきいきしてるね。」「○○の考えは良いと思うよ。」「この一年でどんなところが成長できたと思う?」といった具合です。

③希望の法則

人は「未来に対する見通し・希望を持てるほど」馬力が出る生き物です。自分たちが取り組んでいることが未来を変える、社会を良くする、自分の将来が安泰になる、自由な時間が増える…それが目に見える形になってしまえば後はやるだけですから、その時の人間のパワーは非常に大きなものとなるわけです。 

ベンチャー企業が少数精鋭でも大きな力を発揮できるのは、この希望の法則があるからです。これは「自分がやっていることの成功期待(上手くいく見通し)」が人のアドレナリンを搔き立てているわけですが、ビジネス的な成功期待ではない場合においても有効となります。

具体的には、「今年一年でどんなことにチャレンジしたい?」「職場(会社)を良くしていくためにどうしたら良いと思う?」「もっと皆がワクワク働けるための仕掛けを一緒に考えない?」といった前向きな問いかけをしていくことです。

こうした3つの法則を日頃のコミュニケーションの中で経営者や管理者が徹底して使っていくことで安心して働くことができ、やりがいと希望を感じられる組織風土を作ることが可能となります。また、感情の3法則の良いところは何と言ってもお金がかからないことです(笑)

ぜひ、実践してみてください。

今回も、最後までお読みいただきましてありがとうございます。

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