経営理念(=思い)が従業員に伝わらないと日々感じている経営者が侵している3つの過ち

まずあなたに1つ質問させて下さい。

今このコラムを読み始めようとしているあなたは「経営者」もしくは「経営に近い立場」の方ですか?
もしあなたがそのどちらでもないのであれば、以下のコラムを読んでも意味が無いので、今すぐ別のコラムを読むことをお勧めします。

もしあなたがそのどちらかで、かつ経営理念に関して興味があるのであれば、今回のコラムはあなたにとって非常に意味があるので、このまま読み進めて下さい。
では、準備は宜しいでしょうか?さあ、スタートです!

経営者であるあなたは、過去に一度は必ず従業員に対して思った事があるはずです。

「なぜわかってくれないのか?」

あれだけ、

「お客様の立場になって行動しなさい」
「仕事は最後まで責任をもってやり遂げなさい」
「自分に何ができるのか常に考えて行動しなさい」
「常にチャレンジ精神をもって、業務に取り組みなさい」

など、自分が会社を立ち上げてからずっと大切にしてきた信条を、日頃から口を酸っぱくして社員に伝えているのに、なかなか理解してくれないと感じた事はありませんか?

では、このように感じた経営者が次にとる行動は?

「よしっ、経営理念を作ろう!!」

ですね。そしてインターネットを駆使して、様々な企業の経営理念を集め、自分の気に入ったキーワードをつなぎ合わせて、かっこいい経営理念を作ります(笑)

そして次の朝、満を持して朝礼で発表するのです!

「うちの経営理念は、『●●●●●』だ!!!
これからはこの経営理念を常に意識して業務にあたるように!!!」と。

その後はもう簡単に想像できますね。
毎日の朝礼で経営理念を唱和するも、従業員の行動は全く変わらず・・・。

日頃から多くの経営者とお会いし、経営理念の悩みや問題についてお聞きしますが、ほぼ全員がなぜか同じような結末を迎えています。
経営理念をしっかりと文章化し、従業員に浸透させるため毎朝唱和までさせているのに、なぜ浸透しないのか?理由が分からない…。

実は、上記の過程で多くの経営者が3つのミスを犯しています。

今回のコラムでは、

他社は経営理念をどう取り扱っているか?
経営理念を従業員に浸透させる3つの方法

についてお話したいと思います。

他社では経営理念をどう取り扱っているか?

昔から日本ではトップの考えや価値観を現場で働いている従業員や部下に理解させ、体現させる事が大切にされてきました。昔でいえば『家訓』にあたるものです。
よく時代劇などに出てくる商家で見る「○○十か条」と言った類いのものですね。
それが時代と共に変化し、「社是」「社訓」となり、現代では「経営理念」と呼ばれるものになりました。

『労政時報』第3918号の「経営理念の策定・浸透に関するアンケート」によると、経営理念が『ある』と回答した企業は全体の90.6%、1000人以上規模では100%だそうです。

– (社)、% –
区分 全産業 製造業 非製造業
規模計 1,000
人以上
300~999
300
人未満
合計 (85) 100.0 (20) 100.0 (34) 100.0 (31) 100.0 (45) 100.0 (40) 100.0
経営理念 ある 90.6 100.0 88.2 87.1 95.6 85.0
ない 7.1 5.9 12.9 4.4 10.0
現在策定中 2.4 5.9 5.0
ミッション ある 76.5 85.0 73.5 74.2 80.0 72.5
ない 20.0 15.0 20.6 22.6 17.8 22.5
現在策定中 3.5 5.9 3.2 2.2 5.0
ビジョン ある 74.1 85.0 73.5 67.7 80.0 67.5
ない 20.0 15.0 17.6 25.8 13.3 27.5
現在策定中 4.7 5.9 6.5 4.4 5.0
行動規範 ある 80.0 90.0 76.5 77.4 88.9 70.0
ない 15.3 5.0 17.6 19.4 8.9 22.5
現在策定中 4.7 5.0 5.9 3.3 2.2 7.5

[注]ビジョンに関しては、無回答が1社見られた

さらに、「経営理念」等の浸透に向け、何らかの取り組みを実施しているか、と言う質問に対しては、「実施している」企業は75.0%とまずますの高さになっています。

– (社)、% –
区分 全産業 製造業 非製造業
規模計 1,000人以上 300~999人 300人未満
合計 (80) 100.0 (20) 100.0 (31) 100.0 (29) 100.0 (45) 100.0 (35) 100.0
実施している 75.0 75.0 77.4 72.4 80.0 68.6
実施していない 22.5 25.0 22.6 20.7 17.8 28.6
その他 1.3 3.4 2.9

[注]
1.無回答は省略したため、足し上げても100%にならない
2.「その他」の内容としては「計画中」があった

このデータを見た時に、こんなにも経営理念浸透に取り組んでいる会社が多いのかと正直驚きました。さらに次の質問では、どの様な取り組みをしているのかを聞いていますが、結果が様々な会社の現状をとてもよく表しています。

– (社)、% –
区分 全産業 製造業 非製造業
規模計 1,000人以上 300~999人 300人未満
合計 (60) 100.0 (15) 100.0 (24) 100.0 (21) 100.0 (36) 100.0 (24) 100.0
自社ホームページに掲載 ①70.0 ①86.7 ①66.7 ①61.9 ①69.4 ①70.8
パンフレット、カード、書籍等の配布 ②61.7 ③66.7 ②58.3 ①61.9 ③55.6 ①70.8
パネルやポスター等の掲示 ③56.7 60.0 ③54.2 ③57.1 ②61.1 ④50.0
経営トップの年頭あいさつや訓示等で経営理念の内容を紹介 ④55.0 ③66.7 ④50.0 ④52.4 ⑤47.2 ③66.7
新入社員を対象にした経営理念教育 ⑤50.0 ②73.3 37.5 ⑤47.6 ③55.6 41.7
社内向けにイントラネット等で経営理念に関するページを公開 41.7 53.3 ⑤41.7 33.3 36.1 ④50.0
社内報や社内の刊行物で経営理念に関する記事を紹介 41.7 ③66.7 37.5 28.6 44.4 37.5
朝礼等での唱和・読み上げ 36.7 46.7 37.5 28.6 36.1 37.5
管理職以上を対象とした経営理念に関する研修 26.7 33.3 37.5 9.5 22.2 33.3
新入社員以外の階層別教育における経営理念教育 23.3 53.3 20.8 4.8 27.8 16.7
経営理念を日本語以外の多言語に翻訳 20.0 26.7 20.8 14.3 25.0 12.5
経営理念に基づいた各種研修 20.0 46.7 12.5 9.5 16.7 25.0
経営理念に基づく行動を評価する人事評価 20.0 13.3 16.7 28.6 13.9 29.2
経営理念を象徴化した「マーク」や「ロゴ」を使用 18.3 20.0 20.8 14.3 22.2 12.5
昇進・昇格審査時に経営理念に基づく判断項目を設定 16.7 26.7 12.5 14.3 13.9 20.8
経営理念に基づく行動に関する表彰制度 15.0 26.7 8.3 14.3 11.1 20.8
一般社員を対象とした経営理念に関する研修 13.3 20.0 16.7 4.8 8.3 20.8
従業員意識調査等で浸透状況を定点的に調査 13.3 20.0 8.3 14.3 16.7 8.3
経営理念を活かしたOJT 11.7 20.0 8.3 9.5 8.3 16.7
経営理念等の浸透に向けた専任部署の設置 8.3 6.7 8.3 9.5 2.8 16.7
経営理念に基づく行動を承認する取り組み(「褒め褒めメール」など) 5.0 6.7 4.2 4.8 12.5
経営理念に関する「〇〇月間」「〇〇キャンペーン」といった社内イベント 5.0 13.3 4.2 8.3
名刺への印刷 3.3 4.2 4.8 5.6
経営理念に基づく優れた行動を共有するワークショップ等を実施 3.3 13.3 5.6
その他 1.7 4.8 2.8

[注]「その他」の内容としては「新任管理職研修時に再徹底」

さあ、どうでしょうか。
取組み施策の
1位「自社ホームページに掲載」
2位「パンフレット、カード、書籍等の配布」
3位「パネルやポスター等の掲示」
です。
具体的な施策としては、やっと5位に「新人社員を対象にした経営理念教育」が出てくるぐらいですね。

これでもうお分かりかと思いますが、世の中多くの企業が会社規模に関わらず、冒頭に書いていたパターンを繰り返しているのです。

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経営理念を浸透させるための3つの方法

なぜ同じような事が多くの会社で繰り返し行われているのか?
私は冒頭に経営者が3つのミスを犯していると書きましたが、結局多くの経営者が以下のような共通のミスを犯しているからです。

その3つのミスとは、

経営理念をかっこいい言葉でまとめている
経営理念の作成時に従業員を巻き込んでいない(社員に当事者意識が無い)
経営理念が組織作りや人事の仕組みと連動していない

となります。それでは、1つずつ詳しく見ていきましょう。

経営理念をかっこいい言葉でまとめている

まず冒頭の例では、経営者が経営理念を作成する際に、Webで他社の理念を探す→経営者が気に入ったワードを選択する→ワードをつなぎ合わせて、聞こえのよい文章に置き換えると言う流れでした。
ここで完全に欠けている視点が、
「経営者が本心を語っていない」と言う事です。
本心からこれから会社をどうしていきたいのか、会社の存在意義とは何か、自分の価値観だけでなく会社に関わるメンバーやステークホルダーの考え方も反映された形で今の会社風土に合っているか等が言葉として表現されていないのです。

例えば、営業会社などに多いのですが、経営理念には「チームワーク」「協調性」「和を重んじる」などのキーワードが多用されているのですが、現実は毎日のように数字目標に対して上司から詰められ、部下は疲弊しきっているといった事をよく見かけます。
これならば初めから経営理念を『儲ける』にしておいた方が従業員にも伝わりやすいですし、きっとそこに共感したメンバーが集まってきます。
このように経営理念と実態が乖離しているために、従業員に理解されず伝わらないと言った事が多くの企業で起こっています。

経営理念の作成時に社員を巻き込んでいない

どんなに素晴らしい経営理念を作っても、従業員が『自分事』と捉えない限りは機能しません。多くの会社で経営理念を社長や経営幹部等のクローズされた中で作っているので、いきなり当社の経営理念はこれだ!と言われても、「また社長が何かやり始めたよ、まあ当たり障りないよう適当に対応しておこう」となり、従業員は自分事として捉える事ができないのです。ただでさえ、経営者と従業員とでは視点が異なります。経営者は会社全体の最適化を考えながら日々動いていますが、従業員は目の前の仕事や業務をどうクリアしていくのかにしか興味がありません。

大切な事は、なぜ経営理念が必要なのか、なぜこの様なキーワードを選択したのか、を経営理念を作る段階で従業員と共有する、もっと言うと作る段階で従業員を巻き込んでおかないと、完成した時、従業員自身に【当事者意識】は生まれないのです。

私の経験上、従業員を巻き込んで経営理念を作る最大のメリットは、出来上がった時点で参加した従業員自らの言葉によって同僚や部下へ説明できるという事です。先ほども述べたように経営者と従業員では見ている景色が異なっているので、経営者がいくらかみ砕いて分かりやすい言葉を選択して伝えようとしても、同じ社員が「この経営理念は自分達で作ったんだから、大切にしよう!」という言葉のチカラにはかないません。
なので経営理念を作る際は、従業員を巻き込んで作る事を是非意識して下さい。

ただ勘違いしてはいけませんが、これは従業員に丸投げする、従業員の意見全てを受け入れると言う訳ではありません。ここでの従業員の役割は、あくまでも自分たちの意見を出す、会社をこうしていきたいと言う想いを吐き出すのみです。最終判断は必ず経営者であるあなたがしなければならない事を頭に入れておいて下さい。

経営理念が組織作りや人事の仕組みと連動していない

では最後のポイントを説明していきましょう。
私は、お会いする経営者によくこんな質問をします。

御社の経営理念は何ですか?

経営理念を作っている経営者は、皆さんここぞとばかりに自社の経営理念を説明してくれます。一通り説明を聞いた後に、続いてこんな質問をします。

その経営理念に基づいて、事業計画や事業戦略を立てられていますか?

特によく学ばれている経営者は、たくさんの資料を引っ張ってきて、細かく如何に自社の事業計画や事業戦略がよく練られているかを意気揚々と説明してくれます。
その資料を見ると、たいていは確かによく練られていますし、経営者の熱量も伝わってきます。
で、最後にもうひとつ質問します。

では、その事業計画や事業戦略を実現するのは具体的にどんな人ですか?

この質問をすると、今まで意気揚々と語っていた多くの経営者は途端に黙ってしまいます。
あなたはどうですか?この質問に答える事はできるでしょうか?

経営者は当然ながら売り上げや利益を上げるためにどうしていくのかを常に考えているのですが、それを達成するためにどんな組織を作っていくのか、どのような人材を育成していくのかについては、殆ど考えていません。

この一連の質問で分かる事は、如何に経営者が売上や利益ばかりに気を取られ、組織作りや人材育成を疎かにしていたり、組織や人事面において戦略無く思いつきでやっているのか、という事です。

本来、会社運営は経営理念をベースに、事業計画や方針が立案され、それを実現する為に人事ポリシー(会社で働く人たちが、どのようにあるべきかを方針や志向で示したもの)が必要となります。
加えて、その人事ポリシーを実現するために、どんな人を採用するのか、どのような教育を実施するのか、どういった経験を積んでもらうのか、どういった事を評価するのかと言ったように経営理念⇒人事ポリシー⇒人事システムが連動する事ではじめて経営理念が活きてきて、社員に浸透する仕組みになっていくのです。

ただ残念ながら、ほぼ全ての会社で事業計画・戦略・方針と人事ポリシー・組織設計の間が分断されていて、全く連動していないのが実状です。
経営理念や人事ポリシーを具体的な評価項目に落とし込み、従業員が日々意識して行動できる仕組みを作る事が経営者の役割ですし、経営理念を従業員に浸透させるための重要なポイントとなります。

今回のまとめ

今回お伝えした事をまとめると、経営理念を従業員に浸透させるには、3つのポイントを押さえておく事が大切です。ここを意識して組織運営をしていけば、「なぜ従業員に経営理念が伝わらないのか」と悩む日々から抜け出せるでしょう。

(3つのポイント)
⓵経営理念には経営者の本心を反映させる
②経営理念作成時に従業員を巻き込こむ
③経営理念をベースに組織や人事の仕組み作りを行う

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここまで読んでみて内容には納得できるものの、「じゃあ具体的にどうすればいいの!?」と思う方も多かったと思います。

次回はその要望に応えるべく、どのように進めていけば良いのかを具体例を交えながら説明していきたいと思いますので、次回もお楽しみに。

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一本亮
本コラムの執筆者プロフィール
ココロデザイン株式会社 代表取締役一本 亮

1978年生まれ。福岡県福岡市出身。東京海上日動火災保険株式会社等の勤務を経て、健康食品メーカーであるキューサイ、化粧品や医薬品を製造販売する新日本製薬の人事部門で組織編成を始め、採用・教育・人事制度・労務管理等の人事実務全般に従事し、制度設計と運用の両面で成果を残す。
2014年ココロデザイン株式会社を設立、ベンチャー企業~東証一部上場企業に至る人事戦略から実務に至るコンサルティングを手掛ける。2018年、人事経験をベースに人材定着・育成に有効なクラウド型定着検査サービス「ココトレ」をリリース。中小企業のみならず上場企業や大学等の教育機関も活用。

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